「後方より高速で接近する船体を確認!」
『船種は?』
「ガレアスです!」
『奴が帰ってきたか・・・総員第一戦闘配置!』
ここは東地中海。
最近になって各国の警備強化により、この海域での海賊行為は事実上不可能となった筈だった。
しかし、先日のレパントの海戦により、西欧連合は勝利を収めたものの経済に手痛いダメージを負い、対するオスマン帝国にはそれほどの衝撃をもたらすほどではなかった。その結果、遠方地域の監視が行き届かなくなるという事態を引き起こしてしまったのであった。
かつてこの海域では収奪が日常の如く行われていた。
アテネ・ベイルート・カンディア・ヤッファ・カイロには名産品が多く、この海域で交易をすることは大きな利益に繋がった。だが、その交易品に群がる人々を虎視眈々と狙う海賊がいるのだ。
またアテネの街は冒険者のメッカとしても名高く、数多くの冒険者がこの地を訪れるのである。そして彼らの偉大な発見を横取りすることは海賊たちにとって交易品以上の旨みであった。
私もこの海域で三度襲撃された。
一度目は接舷を許したものの何とか撤退に成功した。
二度目はフリゲートの優速と船尾砲を駆使して損害を受けながらも脱出。
三度目はこちらの船尾砲を巧みにかわされ、白兵戦で敵の突撃に防御体制で対抗したものの、戦力に差が有り過ぎて結局拿捕されてしまった。
そんな殺伐とした雰囲気の東地中海が安全海域と化すと聞いたときは本当にほっとしたものであった。幸いにも私は工業品にはうるさく、アテネの大理石と羊皮紙、ベイルートとヤッファの鋼、カイロのパピルスの相場が安いときは、遠くにいる仲間にも伝えたものであった(来ないとわかっていても)。ここで商売をすることは楽しかった。
それが今やまた以前の海に戻ろうとしている。
数多の航海者の血を吸い続けた、あの残酷な海へと。
この海域の警備が薄くなったという情報を聞きつけた海賊たちが、再びこの海で名を上げようと舞い戻ってきたのであった。
「捕捉されやした!これよりガレアスと戦闘に入りやす!」
『いいか、まずは機雷を敷設しつつ前進だ。相手の狙いは収奪だからな。頼まずとも近寄ってくれる。2,3回踏んでくれたところで90°旋回してガレアスの船首に砲弾を叩き込んでやれ』
「あいあいさー」
「誘導に成功!ガレアスが機雷に接触しやした!」
『右90°転舵!接舷範囲ギリギリまで引き付けるぞ!』
「水平射撃発動!」
「弾道学発動!」
「キャノン砲14門4基とも装填完了!」
『撃てぇぇぇぇぇえええええええ』
ズゴゴゴゴォォォオオオオオオン!!
「ガレアスの船首に直撃しやした!相手は動けません!」
『漕船中止して速射発動!ありったけの砲弾を撃ち込んでやれ!』
「了解でさぁ!」
「ガレアス大破!修理の気配無し!沈黙しやした!」
『波状攻撃を受けて資材を切らしたようだな。マストも全部やられてる』
「ひゃっほーーー」
「あの海賊を討ち取ったぜぇえええええ」
『ばか言え、こちらも弾薬は殆ど切らしてるんだ。このままずらかるぞ』
「えーーーーーーーーー」
「せんちょ賞金欲しくないんですかぃ?」
『向こうの面目は丸つぶれなんだ。必要以上に恨みを買うこともあるまい』
「なんでぇつまんねぇの〜」
「せんちょ欲が無えなぁ〜」
『マスケット捌いたらちゃんとおごってやるぜ』
「勝利の美酒ですね」
「やっほーーーーーーーーーーい」
「・・・まだです!ガレアスがこちらに接近中!」
『何だと!まだやる気か!!』
「接舷されます!」
『白兵戦準備!敵は必ず突撃してくる!合図を出したら陣形を整えろ!』
「あいあいさー」
「敵船員突っ込んできやした!」
『今だ!敵の斬り込みを食い止めろ!』
「防御に成功!敵の足が止まりやした」
『油断するな!もう一度来るぞ!しっかりタイミング合わせろよ!』
「了解でさぁ!」
「あっしらが押しています!」
『撤収する!離れたら水平射撃で止めを刺すぞ!』
「野郎共もたもたすんな!」
「装填完了!」
『発射!!』
ズドーーーン
「ガレアスの沈没を確認しやした!」
『終わったか・・・』
傾斜しているガレアスを尻目に、我々は離脱した。
そこにはもはやかつての威光を感じることができなかった。
力の象徴たるガレアス。
数多の航海者を恐怖に陥れたその巨体も時代の流れと新型大砲にはついていけなかったのであった。
だが、私がここまで来れたのはそれだけではなかった。
商会長を初めとする多くの料理人が作る有り余るほどの料理は海事修業に全く困らなかった。
美人のあの人の織り成すレザージレは船員たちの漕力に大きな力を与えた。・・・いや、彼女が顔を出してくれるだけでも、船員たちは普段出さないやる気を出したものだが。
体は小さくても偉大な冒険者は、見るからに高価な武器や防具を簡単に発掘してきては私に提供してくれた。疾風の如く世界中を駆け抜ける彼女の背中を追いかけて、冒険に興味を抱いたのも事実であった。
「未完の大富豪」と称する彼のように金持ちになりたくて、大砲屋の道を志した。苦労して出来た大砲は商売だけでなく実戦の役にも立った。
「爆弾娘」と称される姉御の下で海事修行に励み、沈没しかかって(実際に沈没したこともある)慌てふためいたこともあった。でもそのおかげで沈没してもあまりショックを受けなくなったし、海事スキルも強化された。彼女と共に大海戦に参加したことは楽しかった。
常に仲間への支援と仮面を外さない教祖様及び代行様のおかげで、最初は敬遠しがちだった仮面にも抵抗が無くなった。今ではすっかりハマっている。
我帰還せり。
・・・
(´-`).。oO(な〜んて航海をしてみたいんだけどなぁ・・・